コンビニのスナック菓子コーナー。
小さいながら確かな存在感を放ちながら、そのパッケージはぶら下がっていた。
『揚げだし豆腐をサクサクッとした食感に仕上げました。』
高さ15cm程の小さな裏面には、確かにそう書かれていた。
「揚げだし豆腐が…スナック菓子?」
第一印象はこんな感じ。
なぜですか、なぜなんですか。
なぜ揚げだし豆腐なんですか。
強烈な出会い。インパクトは最強。
瞬きよりも速く、一瞬で惹きつけられてしまった。
しかし、私は躊躇した。
「ちょい、待ちーや。パッケージめっちゃ小さいやん。大きいやつ買いーや。大きくて安いやつ買いーや。」
私の中のコスパ大臣がそう囁いてきた。
囁きにしてはすごく大きい、口調からは完全にヒョウ柄のレギンスしか想像できない。
コスパ大臣はヒョウ柄のレギンスを履いている、たぶん。
私はひとまず、大きいやつを買い、その日はコンビニを後にした。
家に帰って私は心底後悔した。
「なんで買わんかったん?なんでなん?何してんの?めっちゃ気になってたやん?なんでなん?なんで買わへんのん?」
私の中の欲望大臣がそう囁いた。
大臣にしては見境がないし、口調からは完全に紫色のメッシュしか想像できない。
欲望大臣は紫色のメッシュをしている。たぶん。
私は二人の大臣の囁きに振り回され、翌日コンビニに向かった。
…あった。
『揚げだし豆腐のまんま』は昨日と同じ姿で確かに存在していた。
「今日こそは買おう」
私は素早く手に取り、レジへ向かった。
パッケージから推測するに、中身はとても小さい。しかも軽い。コスパ大臣の文句が聞こえてきそうだ。
私は意を決してパッケージを開けた。
コロリ
小さな塊が出てきた。
それは正しく、小さな揚げだし豆腐だ。
私の手のタコが写っているが気にしないで頂きたい。
見てほしい、これが「揚げだし豆腐のまんま」である。
私はその小さなカケラを口に入れた。
…
…………
………………
「めっちゃ揚げだし豆腐!」
そう、めっちゃ揚げだし豆腐だった。
生姜の風味がバッチリ香り、カツオも感じるめっちゃ揚げだし豆腐だった。
それ以外の何者でもない、めっちゃ揚げだし豆腐だった。
揚げだし豆腐のまんまは、やはり揚げだし豆腐のまんまだった。
これが、私と「揚げだし豆腐のまんま」との出会いである。
この物語は、特にこれ以上の広がりはない。
《おしまい》