「昨日書いた詩のことは忘れてくれ…」
犬爪ポチはそう呟きながら、両手にのせたおむすびを、30m先にある500円玉でも見るかのように見つめていた。見えているのか、見えていないのかは定かでない、ただただ熱心に見つめていた。
気まずさに、体の半分から緑色のネバネバが凄い勢いで溢れ出した。(僕は気まずいと体の半分から緑色のネバネバが出てしまうのだ)
僕の背後の窓に何かが当たる音がする
ちょっと南国のリズムだ。
しばらくすると、犬爪ポチは静かにこう呟いた。
「このおむすびの具が何か、君にはわかるかい?」
…わかるかいな…。
さらに気まずくなったことにより、僕のネバネバは勢いを増した。足元にいたヤドカリ達が一斉に僕のかかとを狙い始めた。
「そうですね………梅かな」
「君は薄情な奴だな」
しばらく静寂が続いた。
そうしているうちに、ヤドカリ達はスネに登り僕のスネ毛の手入れを始めた。ヤドカリは身嗜みに厳しいらしい。
「君は詩には興味がないようだ…」
「詩…ああ、サケむすびですか…」
「そうだ、サケむすびだ」
…忘れろって言ったじゃん。言ったばっかじゃん。
僕は段々帰りたくなってきた。
体の半分は緑色のネバネバでどうしようもない感じになっているが、構うもんか。
帰ろう
そう決め、部屋から出ようとドアノブを握った。
「やめたほうがいい」
開けたドアからふと外を見てみると、お茶漬けのあられが、サンバのリズムを刻みながら吹き荒れていた。
「ワルツだったらなぁ…」
僕はつい、本音を口走っていた。
「すまないね…今使いの者を呼ぶよ」
犬爪ポチはそう言うと、机の引き出しからボイスレコーダーを取り出した。
「今すぐ来てくれ」
そう、録音すると窓を開け、おかきのサンバが吹き荒れる中へ物凄い勢いで投げ入れた。
あられがボイスレコーダーを打ち付ける音がした。
すると、すぐにインターホンが鳴った。
ドアを開けると、そこには2匹のラッコが立っていた。
「ゴムボートをご用意しましたッコ」
語尾が多少気になる。
ラッコは前足におむすびをのせていた。
それをパカっと真ん中で割ると、中からゴムボートが出てきた。
「すごいですね…どこで売ってるんですか?」
「市場ッコ」
市場ってすごいな…玉出なんて比じゃないぞ。
そんなことを考えながら、2匹のラッコとゴムボートへ乗り込んだ。
あられの雨がサンバのリズムで体を打ち付ける。ゴムボート…意味あるかな…。
「明日は内出血ッコ…」
「そうですね…」
ラッコは額から血を流していた。
「着いたッコ」
ラッコに言われ気づくとそこは…
ネオン街だった。
※先に昨日の記事をご覧ください。
《おしまい》